[R18][SakaUra] 溺愛ストーキング
Author: 伯川
Link: https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21296803
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『頑張ってて偉いね。よく出来ました。』
ザザザと響く音
高鳴る吐息に混ざる自分の声。
それは溺れるような恋だった。
溺愛ストーキング
___
23時15分バイト先からの帰り道、何時もの最寄り駅を出て自宅へと向かう。
ひたすら前を向いているというのに後ろから感じる視線は変わらない。
気づいてない、気づいてないふりをしなければとと思いつつも焦りではやまる足は僅かに震えている。
中央で左右に分けてセットしたはずの前髪が目元にかかるも今はそんなことを気にしていられない。
そうしてそろそろこの自体にも区切りをつけなければと、俺は暗い帰り道の中、友人へとメッセージを送った。
『センラすまん、明日の講義後会えないか?
相談したいことがある』
__
「で、うらたん。相談って?」
「............あのさ、最近ストーカーにあってるんだけどどうすればいいと思う?」
浦田渉大学3年、現在見知らぬ男からストーカーにあっています。
「...警察行け。今すぐに」
「まぁそうなるよなぁ」
「寧ろなんでそうならんと思った?」
2つ下の大学の後輩であるセンラに思いきって相談したものの、やはり予想通りの呆れ声で、想定された返答が返ってくるだけだった。
「違うんだよ...」
「...何が違うん?」
「警察頼るのが1番なのは分かってるんだけどさ、それ以外の方法でどうにか諦めさせられないかなと」
「えぇ...なんでそこ拘るん、犯罪やで...?」
「なんでって...」
なんでって、それは実に単純明快な話
俺は元ストーカーだからだ。
3年前、俺には気になっていた人がいた。
カフェの店員さんで、男。
その人は所謂俺にとって憧れの存在だった。
だけど、だけどだ。
彼がバイトを辞めたのかお店で見かけなくなってから、自覚した。
俺がやっていたこと、すなはち店に通いつめたり、目で追ったり、声を録音したり、バイト終わりに帰る所を追いかけたりって...
それ、傍から見たらストーカーではないかと。
いくら無自覚だったとはいえ、正直申し訳なさすぎるし、もう二度と会うこともないだろう。
俺にとってはもはや黒歴史とも言える。
という経緯もあり、ストーカーの気持ちは分かる。分かってしまう。悪気は無いのだろう、気になるだけで。同情の余地もきっとあるに違いない。
そういう訳で警察ではなく、後輩であるセンラを頼り穏便に解決しようとしていた。
「で、なんでストーカー警察に言いたくないん?」
「...オレケイカツニガテ」
「ふぅん?...まぁ、なんか方法考えとく」
まぁ、そんな理由は口が裂けても言えるわけが無いんですが。
だがしかしそんな相談から数日後、センラから想わぬ朗報が届いた。
「うらたん、ストーカー撃退の名案思いついたで」
「えっ、まじ? 助かる。」
どうしたらいい?
そういえばひとつ呼吸を置いてセンラは話し始めた。
「うらたんのストーカーって男なんやろ?」
「おう」
「そしてストーカー」
「そう」
「つまりその人はうらたんに気のある男性」
「...ん?、うん?多分」
「そんな訳で、男ストーカーを撃退するには、他に相手がおると知ってうらたんを諦めさせればええんやないかと思いまして!
うらたんの男の恋人役として
スペシャルゲストをお呼びしました〜!」
男の恋人役?スペシャルゲスト?
そう尋ねようとした時、突如、センラの背後から現れた男を見て俺は息を飲んだ。
だってまさか
「俺の同学年の友人、坂田です!」
俺の元ストーカー相手が目の前に現れるなんて、そんなこと
考えつきもしないじゃないか。
赤髪に、にこりと笑った笑顔はあの日と変わらない。 見間違えるわけが無い、俺がストーカーしてた相手だ。
脳内はまずい、まずいと危険信号を流している。
俺がストーカーだとバレたか?
そもそもこの男は、坂田はストーカーがいた事に気づいてたのか?
心臓がバクついている。
声が出なくて口をパクパクとしていると、
「坂田にはうらたんの恋人役をやってもらおうかと思って、恋人兼ボディガードやね」
なんて俺の方に爆弾発言を落とす。そうして今度はくるりと坂田の方を向いたセンラが俺の紹介を始めた。
「さかた、こちらはうらたん...浦田渉さんね。2個上の先輩。うらたんは俺の大事な先輩やから守ったってな」
「任せとってや!
えっと、うらた先輩?よろしくお願いします」
そう言ってこちらを向いて坂田が会釈をする。
パニックになった頭を必死になって回転させ、俺はさも緊張してないかのように装って返答した。
「...呼び捨てで大丈夫だから、敬語も要らない」
「じゃあうらさんって呼んでもええ?」
「い、いいけど」
「よろしく、うらさん」
その声につられて見上げれば、目が合う。
にこりと優しく微笑む顔に、鼓動が1層高鳴る。
...やっぱり好きなんだよなぁ
でもなんで今更、
もう二度と会わないと思っていたのに
今、俺と坂田ははじめましてだ。 坂田は俺の事覚えてないみたいだし、このままセンラに紹介された友人として出会った方が良いに決まっている。
ほっと息をついていたら、
坂田がずいっとこちらに顔を寄せた。
「...ところでうらさん
僕達、前にどこかであったことありませんか」
「き、気の所為じゃないでしょうか...」
前言撤回、どうやら気を引き締めなければならないようだ。
元ストーカーがストーカーされたら、元ストーカー相手と恋人(仮)になりました。
坂田とのストーカー撃退案、またの名を
恋人(仮)が始まった。
「うらさん、お疲れ様」
「おう、...迎えありがとう」
「帰ろっか」
バイトが終わってすぐ、最寄り駅に坂田が出迎えてくれる。ストーカーがいなくなるまでとはいえ、深夜に近いこの時間に駅から家まで送らせるのは申し訳ないと思いつつも、その幸せを噛み締める。
「うらさん」
「ん、な...にしてんだ?!」
坂田の隣で少し隙間を空けて歩いていれば、突然肩を引かれ、胸元に抱き寄せられる。
「ん、いちゃいちゃ?」
「っ、そこまでしなくて大丈夫だから、」
ストーカー対策として坂田が俺の恋人(仮)になった。
だがここで問題がひとつ、そもそも一緒に帰路に着いた所でただの男友達にしか見えないんじゃないかという話だ
そうしてそれを解決すべく出されたのが恋人らしさを見せつけるという案だった。
...とはいえ正直な所最近はあのストーカーのような気配も感じないし、そもそも人は居ないとはいえここは街中だ。
恥ずかしさの方が勝る。
「うらさん照れとる?」
にんまりと笑って頭を撫でる坂田に翻弄される。恋人(仮)とはいえこちらは元々憧れていたんだ。意識してしまうに決まっている。
「...恥ずかしいだろばか」
「んふふ、かわいい」
「ばか、...帰るぞ」
「はぁい」
そう言って一足先を歩いた俺に楽しそうに坂田が寄ってきた。
____
脳内にこびりつく声にはっと息を漏らす。
1人だけの部屋の中で、自分の吐息だけが響いている。
『頑張ってて偉いね。ご褒美あげる。』
その声を聞いて、その続きを想像する。
「んふ、えらぁい。 よく出来ました。」
甘い声が妄想をかき立てて下腹部に熱を持つ。無意識に手を伸ばし、慰める。 反対の手で、坂田から貰ったキーホルダーを握りしめる。
ぞくりとした感覚に何も見えてないはずの目を閉じる。
「あの店員、案外ねちっこそうだよな」
爽やかで、淡白で、犬のような明るさを持ってて、だけどその裏で本能に貪欲で、甘さを持ちながらもこちらを本能するように責め立てる姿を想像する。 ただの俺の理想像だ。 だけどそんな姿にまた熱が集まる。
「つぎ、いつ行こ......連日行って迷惑がられないかな」
雨が降ると思い出す。
俺が初めて犯した罪は、僅か30秒に満たない会話の録音だったことを。
____
「この上着は...とりあえず干しとくか。明日には乾いてるといいんだけど」
数十分前から打って変わっての緊急事態、
坂田とゆっくりと帰り道を歩いていたら、突如雨が降り、俺と坂田を濡らした。
突然の雨で折り畳み傘は常備しておらず、2人急いで俺の家へと走り出す。
そうしてびしょ濡れになった俺らは急いで部屋へと入り、そのまま帰ろうとした坂田を掴み風呂へと入れた。
つまり...つまり坂田が俺の家に今来ている。
冷静になってみれば、俺、坂田を家に連れ込んだのか?!...いやいやこれは仕方がなかったんだ、不可抗力である。俺は悪くない。
「風呂頂きましたー」
「お、おう。俺も入ってくるから適当にくつろいでて」
「はーい」
そんなことを考えていれば、坂田がリビングの扉を開けこちらへと歩み寄ってくる。
にこやかに出てくる坂田は温まったからか僅かに紅潮していて、思わず視線を逸らし自分も風呂へと向かった。目に毒だ。
そうしてそんな思考を打ち消すかのように俺は急いでシャワーを浴びた。
.........眠れない。
原因はわかっている、隣にいるこの男のせいだと。
元々は俺がソファで寝て坂田にベットを使ってもらう予定だったんだ。 というのも一人暮らしの家じゃ来客用の布団なんて用意してなかったものだから。
だがそれはダメだと坂田と一悶着あったところで、一緒に寝ようと言う1番ダメな提案が最善案に上がってしまっていたのに気づけなかったのが俺の落ち度だった。
「じゃあうらさん一緒にベットで寝よ」
「...え?」
「それがええやん、僕頑張って寝相よく寝るからさ。」
「いやちょっと、坂田、それは」
「ええやろ、一緒に寝よ。仮にでも
恋人なんやし。 」
冗談だとわかっていた。
それでも「恋人」という言葉と、それに続くように坂田に撫でられた頬に、熱が伝わって、思わず口を噤む。
気づいたら2人肩を並べてベットに横たわっていた。これはもう諦めてここで眠るしかないと目を閉じたところで、
坂田が少し身体を身動ぎ、...恐らくこちらに身体を向け呟いた
「...おやすみ、うらさん」
あれからどのぐらい時間が経ったのだろう、
鼓動がうるさくて眠れない。
眠る事に集中しようと思うのに、静かにすればする程、隣から伝わる熱を意識してしまう。僅かにかかる吐息に思わずじわりと汗をかいた。
俺が初めてストーカー行為を行ったのは、今日もおなじ、雨の日だった。
『頑張ってて偉いね。ご褒美あげる。』
たった30秒に満たない録音、
その音は今もご褒美と称してもらった「お守り」と共に過去の記憶として大切に仕舞っている。
その想像を思い出してしまい、ゾクリとする。
少しずつ呼吸が自然に出来なくなって、息が荒くなって、気づけば体の下の方に熱が溜まっていく。
まずい、たってきた。
身体を丸め、溜まりそうになる熱を必死に逃がす、が、1度意識してしまったものは中々出ていかない。
そうして緩く立ち上がってしまったその熱をどうにかしなければと俺はそっと起き上がった。
隣をちらりと見たら坂田が静かに眠っている。だがこのまま隣で処理するわけにも行かない。
とりあえずトイレでも行くかとそっとベットを離れようとしたところで、
「眠れへんの?」
突然、眠っていたはずの坂田から声がかかり思わずびくりと肩を揺らした。
「ごめん、起こした?」
「んーん起きてただけ。
それよりどしたん? やっぱストーカー怖くて眠れへん?」
「そ、う言うわけじゃないんだけど」
声が震えてる、そう言って起き上がった俺を布団の中へと再び引きずり込む。
そうして腰の辺りを抱き寄せぽんぽんと背中をさする坂田の優しさを感じつつも、
今はまずいと思わず胸のあたりを押し返した。
「っやめ...」
「大丈夫やから」
いやいやなにも大丈夫じゃねぇけど?!
これ以上密着したらさすがにバレると焦り、震える声で伝える。
「や、ごめん。 俺ちょっとトイレに」
「.........あー、あのさうらさん、いまちょっと勃ってる?」
「?!!!気づいてたら言うなバカ!!」
だから!!だから大丈夫じゃなかったのに!!
思わず恥ずかしさで涙目になった顔を隠した所で、坂田がその手で、熱に布越しに触れる。
びくりと身体を震わせれば、そのまま撫でられ、思わずパニックになる。
「ちょ、お前なにして」
「ストーカーなんかあっとったら抜く暇もなかったんやろ、このまま抜いたる。」
「......や、何言って」
ズボンを脱がされ、下着越しに撫でられているだけなのに既にもう糸を引いてしまっている。
そのまま下着まで下ろされ、坂田の大きな手で包み込まれ、勢いよく抜かれていく。
「んっ、ふっ、うぁ、やだぁ」
ぐちゃぐちゃと粘り気の強い音が響き渡る。
気持ちよさで漏れ出そうになる声を噛み締めたところで、坂田が囁いた。
「気持ちよぉない?」
「気持ち、いけど、俺だけされるの、恥ずかしい、」
そう言いきったところで、坂田が1度手を止める。
はぁはぁと息を整えていると、それならばと呟いた坂田が耳元に唇を寄せて呟いた。
「僕も勃ってきたから、一緒に抜いていい?うらさん」
「へ、」
坂田が覆い被さるように片手をつき、反対の手で2本を擦り合わせるように抜き始める。両手で声を抑えるのに精一杯で、気持ちいいこと以外もう他に何も考えられない。
「んっふっ、あっ、あっっ」
「気持ちよぉなってな」
勢いが増してきて、思わず坂田の服を掴む。
「坂田、おれもう、いっちゃ...っ」
そう呟いて坂田に肩を預けたところで、俺は果てた。
と思う。多分。
「...全然記憶ない」
アルコールは飲んでないし、坂田が泊まったのも事実だ、よく覚えている。
だがしかし緊張が高まったあの時間だけはどこか浮ついていて、現実と乖離していて、最早途中から夢だったんじゃないかと思う始末だ。
確かにあの後処理して、その後力尽きたように眠った気もするけれども。
坂田は翌日朝にはもう居なくて、だけど代わりにコンビニで買ってきてくれたのか、良ければ食べてくださいというメモと、朝ごはん用にとおにぎりと飲み物、それから数粒の銀紙のチョコレートが置いてあって思わずきゅんとする。
「チョコ.........懐かしいな」
3年前、坂田に出会ったきっかけは本当に偶然だった。
上手くいかないことばかりで、だけど変わらず与えられる受験のプレッシャーに押しつぶされて、何となくその日は塾までの時間家に帰ることが億劫で、せめて店で勉強でもしようかと目に付いた喫茶店に入った。
勉強道具を取り出さなければ、せめて参考書だけでも手元に置かなければと思うのに上手くては動かなくて、ただ無表情のままぼぉっとテーブルを見つめる。
限界だったんだ、あの日は。
「ご注文は如何なさいますか?お客様」
そんな時に対応してくれたのが、店員の坂田だった。
適当に1番上に載っていたコーヒーを注文した俺にそう一言声をかけてカップを差し出す。
良ければとご丁寧に温められたミルクと角砂糖も添えられていてそれを無造作に入れてちまちまと飲み干す。
少しだけできた心の余裕に今度はじわりと涙が溢れた。
そうして少したって塾に行こうと席を立ち会計へと向かったところで、レジに現れたあの店員さんはちょんちょんと俺の握りしめた手の甲を叩いた。
何かと思い手を開けば、その店員さんはその上に銀紙で包まれたチョコレートのようなものを手渡した。
「これサービス。良かったら食べて。」
そう言って微笑んだ笑顔に俺は心奪われた。
たまらなかった。
そうして俺は坂田の所へ通うようになった。俺を甘やかしてくれるかっこよくて優しい店員さんに会いたくて
「まさか年下だったとは」
もう二度と会わないと思っていたのに随分と不思議な形で再開してしまった。
「ってか次会う時どんな顔すればいいんだよ!!」
落ち着いて冷静になって見れば今度は羞恥心に煽られる。
いやてか元々俺が眠れなかってあんな事してくれたんだよな。下心あったの明らかに俺だし......
...
「...いや、どんな顔して会うも何も、
謝って水に流すの俺じゃん。」
寧ろこの場合気不味くて困ってるの坂田の方ではと気づいてしまえば今度は青ざめる。
だってそうだろ、いきなり知らない先輩の恋人役させられてその上その男の家で抜きあいするって...いや絶対に困るだろ。
何とかしなければ、そう思い俺はスマホを握りしめた。
そうして俺は今、センラから今日坂田はバイトだという情報を聞きつけ、坂田のバイト先のカフェにいる。
だがいざ近くに来てみたところで、思うところがひとつ...いやこれストーカー(再)では?
これは入れない、流石に出直すかと踵を返したところで、店のドアが空いた。
「え、...うらさん?!」
坂田が出てくる。
慌てて逃げようとするも背後から
「バイトもうちょいで上がるんで待ってて貰えませんか?!」
と声がかかり立ち止まる。
俺は咄嗟に頷いた、気がする。
気づいたら店長に呼ばれた坂田は店中に戻っていたし、俺は振り返って立ち止まっていた。
頷いてしまった手前、待たない訳にもいかないと、俺は近くの路地へと入った。
カチカチと腕時計の秒針が刻む音がする。
その音が鳴る度にやはり日を改めた方が良かったのではと思い返してしまう。
坂田はどう思っているんだろうか、あんなことがあって、恋人役やっぱり辞めたいとか思ってたらあまりにもしんどい。
だけど、それは実際には有り得る話で。
「......仕切り直そう」
一旦帰って後日話そう、きっとその方がいい。
坂田には今日はもう帰るのでまた後日話したいとメッセージを送り思い駅へと向かう。
そうして通勤ラッシュでごった返した電車内へと乗り込んだ。
プルルルルと電車が閉まる音がしたところで、
「すみません、乗ります!!」
走ってきた坂田が乗り込んできた。
ゼェゼェと肩で息をしており、思わず大丈夫かと駆け寄った。
混んだ電車内で、ヒソヒソとトーンを落として会話を紡ぐ。
「坂田、汗だくじゃん。......なんでそんな走って...」
「うらさん見かけて追いかけたんやけど信号引っかかってもうて。 間に合ってよかった。来てくれたのになんももてなせんでごめんな。」
「いやむしろ俺こそ急に来てごめんな、センラからバイト先だけ聞いて。」
「嬉しかったしええよ。 」
呼吸の整ってきた坂田が笑ってこちらに向く。
思わず胸がキュンとしたところで、大きな駅に着いたのか、人が乗り込んでくる。
慌てて坂田と端に寄ったところで、坂田に覆われるような体制になる。
距離が近くなり体温が伝わる。僅かにあたる吐息に意識が向かないようにと適当な話題を話した。
「......カフェで、バイトしてたんだ」
「そうなんよ、 高校の頃から喫茶店でバイトしとったから大学もそっち系が慣れとってええなぁって。」
「そ、そうなんだ」
そんな会話をしていれば俺の家の最寄り駅のアナウンスが流れる。
止まってしまう前に話さなければと、俺はきんちょうから一つこくりと喉を鳴らして、それから呟いた。
「その...昨日の事なんだけど」
そう言えば坂田は眉をしかめて困ったように言った。
「昨日は本当にごめん」
ごめんなさい、そう言って悲しそうにする坂田に思わず俺も同じぐらいのトーンで返す。
「なんで謝んだよ、...寧ろ俺が悪ぃだろ」
「いやその、あの日は勢いでしちゃってその、嫌な思いさせちゃったかなって。」
「坂田は悪くねぇよ。 だから謝んないで、それに」
駅に着いた。
ドアが開く
俺は逃げ捨てるように坂田の耳元で呟いた
「き、気持ちよかったから。その、するの
だから、嫌とかじゃなかった」
「へ」
「...だから、俺だけが悪い、ごめんね」
そのまま電車から出た所で、
坂田が追いかて、手を掴んだ。
「ちょ、坂田、電車でちゃうって」
その声にも構わずに坂田は俺の手を握ったまま離さず、電車のドアはゆっくりと閉まり、俺たちふたりを置いて次の駅へと向かった。
そうしたところで坂田が俺の腕を掴んだ手をするりと恋人繋ぎに変え、そうして俺に目を合わせて言った。
「あのさうらさん、僕、このまま恋人役続けてもいいですか?」
「.........いやじゃないの」
「うん、うらさんのストーカーがいなくなるまで」
「うん、それは助かるけど、」
「良かった。 ねぇうらさん、
昨日のよかったんだ?」
「......ばか」
またしようねなんて言われて思わずびくりと肩を震わす。
坂田と目は合わせられそうになかった。
合わせたらどうにかなりそうだった。
___
ご飯食べにいったり、
出かけたり、
お泊まりしたり、
これが恋人というやつなのかと実感する。
「......坂田と恋人...幸せすぎる」
もう既に少し汚れてしまった「お守り」を撫でながら呟く。
雨の日に受験前だからと必死に勉強してた俺に良ければと坂田がくれた可愛らしいキーホルダー。
大事にし舞い込んでいたそれを出して眺める。
坂田との今の関係は幸せそのものだ。
___
「うらたん最近どう? ストーカーはいなくなりそう?」
「あー、...まぁ坂田に助けられてはいる」
「......なら、ええねんけど。なんか困ったことあったら何時でも言ってな」
「...ううん、大丈夫だよ。」
帰りの電車来るからもう行くな、そう言って俺は早足で駅に向かった。
坂田との今の関係は幸せだ。だが作戦が上手くいっているかと言うと、むしろその逆だった。
「...はぁ」
自宅について最初に郵便受けを見る。
そうしたら俺の隠し撮りらしき写真が連なっており、眉をしかめる。
どこから撮られていたのか。大学や家近くの姿...それから部屋中の写真まで揃っていて、撮られている所を想像するだけでゾッとする。
坂田と恋人のフリをし始めてから、ストーカー行為はエスカレートしていった。
恐らく逆上させてしまったのだろう、これ迄はあとをつけられるだけだったものの、
こうして写真が届けられたり、無言の電話が来るようになった。
「坂田に相談...いや、無理だよなぁ」
こんな事相談したらきっとこの作戦が良くなかったのだと、坂田に罪悪感を追わせてしまう。それになにより絶対にろくでもないものに巻き込んでしまう。
だから、言えない。
言えるわけが無い
「潮時か」
坂田が好きだ。
付き合いたい、ちゃんと恋人になりたい...けどそれは無理な話だ。
今はワケあって恋人なんて形になってるけど、元々は俺の為にしてくれいて
きっとストーカーが居なくなったら関係もきっと...元通り
いやせめて友人にでもなれれば良いなと我儘にも思ってしまう。
俺はスマートフォンを取り出した。
新しく登録された連絡先、最近1番よく使われたものとして1番上に並ぶその名前をタップする。
通話ボタンを押し、耳元に当てて待つ。
長い呼び出し音に緊張で胸が震える。
「はい」
いつも通りの坂田の声だった。
優しい声に俺は目を閉じ返答する。
「坂田」
「なぁにうらさん」
「声が聞きたかっただけ」
「なにそれかわええ」
いつも通りの会話をする。
大丈夫、俺は間違ってない。
最後の別れを切り出す前にと俺は尋ねた
「あのさ、ストーカーがいなくなってもさ、
友達でいてくれる?」
「え、」
「また遊びに行こうぜ。」
「...ほんまに言っとるん?...無理やけど」
僅かな困惑の中に、確かに不機嫌さを含んだ声に、あぁやっぱり友達にもなれないかと思い、諦め
俺は本題を伝えた。
「暫く会えない。恋人役も、もう大丈夫だからだから、
ばいばいさかた」
プツッと通話の切れる音が耳に響く。
切ったのは俺だ。坂田の返答を待たずに切った。
きっと聞いてしまえば、揺らいでしまうと分かっていたから。
カタをつけなければならない。
このままではいけないのは俺が1番よく分かっている。
暫く家から出ない日が続いた。
元々この時期は出る必要のある講義ももうほとんど無い。
唯一続けていたバイトを休んでしまうのは申し訳なかったが、風邪をひいたと伝え、しばらくの休みを貰った。のだが
「......何が起こってるんだ?」
自分でもはや解決出来るレベルなのかこれはと思っていたにもかかわらず
あの送られていた写真や電話は坂田と会わなくなってからぱたりと止んだ。
その上、引きこもって2週間後、センラからメッセージが届いた。
「...ストーカーを捕まえた?」
慌てて連絡を取ればすぐにセンラは通話に出る。
「捕まえたってほんとに?」
「いやまぁ俺も気になっとって。最近大学にうらたん来てなかったから気になって家近く行ったんやけど、そしたらこの間うらたんの家前におったんをな...悪気はまじでなさそうなんやけどどうする?警察言わんでええ?」
「...うん。言わなくて大丈夫」
「......ストーカーに会いたかったりする?」
「あー...また落ち着いたら会わせて」
どっと気が抜ける。
一体なんだったのだ、まだ昼過ぎだと言うのに途端に安心感から眠気に襲われる。
そうして俺は眠りについた。
___
夜目が覚めて、しばらく出かけていなかったから何も無いと気づく。
慌ててコンビニに向かおうと家を出た。
その帰り道、背筋にゾクリと悪寒がはしる。
「なんか、いつもと違う」
また視線を感じる。
しかも、普段とは違う、僅かな違和感。
ストーカーは捕まったのに。なぜ?
こわい
こわい
こわい
恐怖で震える足をひたすらに押え、走った。
はぁはぁと息切れを起こしながらも自宅のドアへと駆け込む。
視界はぼやけて、目には涙が溜まっているのがわかる。
「こわい、たすけて」
たすけて、さかた
必死に身体を抱え、蹲っていたその時、
スマホから着信音がなった。
ぼやけた視界で通話ボタンを押す。
「うらさん...久しぶり」
それは、坂田からの電話だった。
「ふっ、う、あ、さかた、」
「え、うらさん泣いとる?!」
「ごめん、なんでもな、」
「なぁ、今うらさんの家の近くおるんよ」
ピンポンとインターフォンがなる
「あけて」
ガチャりと、鍵を回せば坂田が飛び込んでくる。 何も怖いものがないとでも言うように優しく抱きしめる。
その背中をぎゅっと、抱きしめた。
____
「......じゃあ視線を感じたのは坂田が追いかけてたからだったのか」
「ごめんなぁ声掛けたかってんけど緊張して話せんで...まさか怖がらせてしまっとるとは思わんで」
「ほんと怖かったんだからな、ばか」
普段と違う視線、それは坂田のものだった。
その事を知った俺はほっと胸を撫で下ろす。
そうしたら坂田がコーヒーを入れてくれた。
砂糖とミルクがたっぷり入ったそれは甘ったるくて、だけど安心する。
俺は話をした。
ストーカー行為が悪化していたこと。
坂田を巻き込みたくて言わなかったこと。
そのストーカーが捕まったらしいこと
それから
「あのさ、俺言わなきゃいけないことがあって。
おれ、昔ストーカーしてたんだ、坂田の」
3年前、坂田が前のバイト先にいた時。
そう言えば坂田はこくりとひとつ頷いて、それから尋ねた
「...それは......どうして?」
どうしてって、そんなの
「坂田が、きになって」
「なんで気になるの?」
「っと、笑顔がかっこよくて、やさしくて、それで」
「それで気になってくれたんだ?」
「ごめん」
「うん、知ってたよ」
そう言われて俺は大きく目を見開く。知っていた...?
「どういうこと」
「知ってた。最初からうらさんが俺目当てで昔通ってくれてたこと、知ってたよ。
流石にセンラから紹介された時は驚いたけど」
最初からバレていたのかと必死に隠していた自分に呆れる。ほんとうに
「好きになってごめん」
「なんで、嬉しいよ」
「へ」
「可愛い人が、ずっと僕の事見てくれてたのに。突然居なくなられてほんま焦った。 」
「かわい、だってお前この間電話で無理って、」
「...なぁうらさん、好きだよ。 大好き。だからもう二度と友達なんて言わんでね。」
「友達...」
まさか
「それで、...無理って言ったの?」
「...あんなに熱烈にストーカーしてくれとったのにまさか友達になりたいなんて理由やったら、流石に無理やなぁって。
だってもう、うらさんのこと手放す気ないし。 」
僕のこと知ってどう? 幻滅した?
そう聞く坂田に俺は答えた。
「なんで?さかたはいつでもかっこいいよ?」
「あーーーもう、じゃあさ、
うらさんは僕のこと、好き?」
「.........すき」
「はは.........うわぁ、めっちゃ照れる。 いや僕が聞き出しといてあれなんやけど、ほんま
可愛すぎて食べちゃいたい」
「食べ?!」
続きを言おうとして口を開いた。
だが音は続くことなく、唇を塞がれる。
深く、なんども
「ふ、...ん、...ん」
ぴちゃぴちゃと音が鳴り響く
さかたにキスされてる。
唇が離れて糸を引く。
その糸がプツリと切れて、坂田がペロリ俺の唇を舐め、それから指で拭い、こちらに視線を送った。
ギラギラと熱の篭もる瞳、まるで獣だ
愛してるよ。
そんな甘い言葉で俺を溶かしていく。
その恋に溺れていく。
epilogue
「お、お邪魔します」
「いらっしゃい、うらさん」
坂田の家に来た。名目はお家デート。
だけど実際は今日坂田と初めて最後までする、約束をしていた。
そのために家を出る直前まで準備だってしていた。 だから、つまりは、もうその気分というわけで。
だけど坂田は本当に「お家デート」をするつもりなのかにこやかに笑いながら聞いてくる。
「うらさんご飯は食べてきたんやんな。 もう遅いけどどうするゲームでもする?」
そんな事より、早く坂田としたい。
でもそんなこと言えるわけがなくて
必死に訴えるべく、俺は坂田の服を掴んだ。
坂田が振り返り、うらさん?と尋ねてくる。
「...飯食ってきた」
「うん」
「風呂も入ってきた...」
「...うん」
「......準備してきた、から」
そう言うと坂田が抱きしめた。
先程より、1トーンは低い声で言う。
「ずるすぎやろぉそれは」
抱きしめられ密着すれば、坂田も既に、そういう気分なのだとわかる。
ごりっと押し付けられたそこは熱と膨らみを持っていて、そこに意識していれば、
坂田はそのまま腰まで手を滑らせ、反対の手で俺の顎を掴み、口付けする。
「ふっ......んっ、ふぁ」
浅い呼吸を繰返していれば、坂田は舌を絡み入れ、上顎をくすぐる。
最早何も考えられなくなったところで、気づいたら、トンっと方を押され、それからベッドに縫い付けられる。ベットからは坂田の匂いがして、それだけでたまらなくなる。ふぅと息を吐いた坂田は最高にかっこよくて動悸が収まらない。
「うらさん、服脱がすね」
「んっ、」
上着をぬがされ、坂田の右手で胸をあおられる。すりすりと優しく撫で弾き、摘まれ、くりくりと弄られる。そうしているうちにしたのズボンと下着も脱がされ、左手で俺のものを抜かれる。
恥ずかしくて視線を逸らせばそっと覗き込まれて、口付けされ、視線が絡み合う。
いつまでたってもこの視線には慣れない。まるで全てを覗き込まれるような感覚に、ゾクゾクとした快感を得る。
「んっうっあ、っはっ、」
「気持ちいい?」
「...んっ、う、ん」
そのまま前を抜きながら、準備していた後ろに坂田が指を1本入れる。中を馴染ませてからもう一本と増やし2本を中を探るように動かす。坂田の指はごつくて、思わずいい所にあたって腰が跳ねる。
それを見逃してくれなかった坂田は執拗にその場所を攻め立てた。
「んっ、あっ、あっ、ッ、さかた、も、いっちゃうから、」
「んふっ、かーわいい、もっと溺れて?」
後ろと前を弄られ、涙で視界がぼやける。
胸の先端をぺろりと舐め、甘噛みする。
坂田の手で舌で、性感帯全部を弄られて
もうすぐにでもイってしまう
「ッ、あっ、ぅんぅ、イく...っ、」
ビクビクと震えて、頭が真っ白になる。
クラクラとした快感に溺れて、体が震えている。
そのふわふわとした夢のような中から、カチャカチャとした音で呼び起こされる。
坂田がベルトを外し、下着ごとズボンを下ろす。
そこは既に臨場体制で、立ち上がったそれは予想よりも大きくて、思わずゴクリと喉がなる。
坂田がゴシゴシとその性器を立ち上げながら問う
「いれてええ?うらさん」
「...ん、う。 さかた」
そんなの、答えなんて決まってる
「...いれて、ほしい」
そう言って両手で坂田のにそっと触れ、自分の準備したそこへとぴとりと近づける。
坂田の既に溢れた先走りが俺のそこを汚していく。
手を俺の横において、逃げられないように塞いだ坂田はふぅと息を吐きながら言った。
「挿れるね」
ずっ、っと質量を持ったそれが俺の中に入ってくる。
「は、あっ......♡」
気持ちよさから思わずぎゅううっと締め付ければ坂田が少し顔を歪める。
その様子に少しにんまりしていたら、腰をがっしりと掴み、勢いよく中を擦り始めた。
パンパンパンパンッとぶつかる音が響き渡る。
「んっ、あっ、あっ...あっ」
「あー...すっご...」
あまりの快感に逃げようと腰を引けば俺の横に会った手が俺の両手を恋人繋ぎにして引き寄せる。
奥までしっかり入った状態で逃げられない。
激しい抽挿に全身が快感にに溺れてしまったようで、声が抑えられないほどにひたすらに気持ちよくて、もう溶けてしまいそうだ。
「あっああ、あああっ...!」
「ーーーーっ、あっ...ッ」
全身が震え、ぎゅううっと締め付ける。
手を伸ばし、坂田の方へと手を伸ばす。
「好きだよ、坂田」
視界がチカチカと点滅し、ぼやけていく。
そのまま俺は意識を手放した。
_____
「うらさん可愛かった.........」
食べてしまいたいぐらい可愛いとは正しくこういうことを言うのだろう。
果ててすぐ、すやすやと眠ってしまったうらさんにキスを落とす。
まだ中に入っている自分のものを抜き出せばそこはまた熱を持ち始めている。
第2ラウンド...と言いたいところだが無理はさせられない。 どうせ他の人に奪わせる気などサラサラないのだ。
うらさんの服を自分の服と共に洗濯カゴへもほおりこもうと回収していた時、懐かしいものがポケットから見つかった。
「お守り、まだ持ってくれたんやぁ」
「流石に期限切れ・・・・とるやろうから、新しいのプレゼントせなな」
__
「その、本当にすまん」
「もう気にしてないから、まーしぃも気にしないで。」
あれから数ヶ月後、俺の元ストーカーだという男に会うことにした。もちろん坂田に言えば心配されるから、黙ったままで。
ひとつ大きくよそうと外れていたのは、その男が自分と同じ歳のイケメンで、すぐに意気投合してしまったことだが。
センラに同席してもらうことも考えたけど、どうしても2人で話したいことがあったからあえて席は外してもらった。
「センラからあとつけてたのはまーしぃだって聞いたんだけど、...あのさひとつ聞いてもいい?」
「おう、」
「写真ってどこから撮ってたの?」
「写真?」
「ほらポストに入れてたやつ。 色んな所から撮られてたし流石に怖くて」
そう言えば、まーしいが返した言葉は、意外なものだった。
「えっ、そんなことしてたん?」
「え?」
そういうことしてたん...って、どういう意味だ?まさか無自覚で覚えてないののかと困ったように聞いた。
「...いや、まーしーじゃないの?だってストーカーしてたんでしょ?俺の」
そう言えば誤解だと言ってまーしーは手を横に振った。
「違う違う!
俺はうらたさんのストーカーやないから!
確かに...うらたさんの帰宅まで見守って知らせろってうるさかったからそうしとったけど」
「え、」
「流石に写真は怖すぎやな。 あいつにはちゃんと言ったほうがええやろな」
そう言ってうんうんと頷くまーしぃに俺は責めよった。
「まって、まって、」
「ん?」
「あいつって
だれ?」
そう言えば不思議そうにまーしーが言った。
「恋人なんやろ?お前ら」
そうあいつからは聞いてるけど。
そう言って俺の新しい「お守り」である、指輪を通したネックレスを指さした。
____
『頑張ってて偉いね。よく出来ました。』
ザザザと響く音
うらさんの高鳴る吐息に混ざる自分僕の録音された声。
自分の録音された声が彼の妄想を掻き立てている事を知った時、誰も見ていないというのに思わずにやけそうな口元を押えた。
その日僕は初めて、ストーカーという罪を犯した
「お守り」のキーホルダーに仕込んだ盗聴器だ。
そのお守りは既に充電期限は切れていたものの
うらさんによって大切に保管されていた。
その事にいっそうほくそ笑む。
それは溺れるような恋だった。
_____
溺愛ストーキング
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